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大阪地方裁判所 昭和40年(ワ)4914号 判決 1975年10月31日

原告

大和紡績株式会社

代表者

瀬戸直一

訴訟代理人

白井正実

外一名

被告

三田村勇

被告

中西宇七

訴訟代理人

山上孫次部

被告

大阪大石商事株式会社

代表者

大石吉六

外三名

右五名訴訟代理人

森田和彦

外一名

主文

一  被告三田村勇は原告に対し、金九、七九八万四、七八三円と、これに対する昭和四〇年一一月四日から支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告中西宇七は原告に対し、金七、八三八万円と、これに対する同月五日から支払ずみまで同割合による金員を支払え。

三  被告大阪大石商事株式会社は原告に対し、金七、三四八万円と、これに対する同月五日から支払いずみまで同割合による金員を支払え。

四  原告の右被告三名に対するその余の請求と、その余の被告らに対する請求を棄却する。

五  訴訟費用中、原告と被告三田村勇との間に生じた部分は同被告の負担とし、原告と被告中西宇七、同大阪大石商事株式会社との間に生じた部分は一〇分し、その二を原告の、その余を同被告らの各負担とし、原告とその余の被告らとの間に生じた部分は原告の負担とする。

六  この判決は原告勝訴部分にかぎり仮に執行することができ、被告中西宇七、同大阪大石商事株式会社は、共同して金二、〇〇〇万円の担保を供して仮執行を免れることができる。

事実《省略》

理由

一原告会社主張の本件請求の原因事実は、損害額の点をのぞいて原告会社と被告三田村勇との間で争いがないから、同被告は、原告会社に対し民法七〇九条によつて損害賠償をする義務がある。

そこで、以下、同被告をのぞくその余の被告らの責任について判断する。

二原告会社が紡績を目的とする会社であり、被告三田村勇がかつて原告会社の従業員として管財課に勤務していたこと、被告会社が大阪穀物取引所、大阪化繊取引所、大阪三品取引所の仲買人であり、同中西宇七が被告会社の登録外務員であつたこと、同大石吉六、同大石敏郎がいずれも被告会社の代表取締役であり、同島津明夫、同小野高重がいずれも被告会社の取締役であること、同三田村勇が昭和三九年一〇日中旬ころから昭和四〇年五月下旬ころまでの間同中西宇七を通じ、被告会社を介して毛糸と穀物の清算取引をしたこと、以上のことは、当事者間に争いがない。

三被告三田村勇が右清算取引の委託証拠金の代用として昭和三九年一〇月一七日から昭和四〇年五月二〇日までの間別紙第一、二目録記載の有価証券を同中西宇七に交付したことは、原告会社と被告中西宇七との間で争いがない。

<証拠>によると次のことが認められ、この認定に反する証拠はない。

(一)  被告三田村勇は、昭和三九年一〇月一七日から昭和四〇年五月二〇日までの間、同第一目録記載のとおり、原告会社の金庫から有価証券を持ち出し、同中西宇七を介して被告会社に清算取引の委託証拠金の代用として預託した。

(二)  被告三田村勇は、昭和四〇年一月二九日から三月五日までの間、同第二目録記載のとおり、原告会社会計課員に嘘を言つて有価証券を詐取し、同目録記載5の株券の一部八〇枚をのぞくその余の有価証券を被告会社に、右控除した株券八〇枚を訴外大阪衣料株式会社に、それぞれ被告中西宇七を介して清算取引の委託証拠金の代用として預託した。

(三)  同第一目録記載1の有価証券二〇枚は、昭和三九年一一月二〇日正午ころ被告三田村勇の求めに応じて被告会社から同中西宇七を介して同三田村勇に返還され、同被告は、これをひそかに原告会社の金庫に収納し、同日午後四時ころ再び勝手にこれを持ち出し、被告中西宇七を介して被告会社に預託した。

(四)  同第一目録記載2の債券五枚、同6の債券二枚、同7の債券二枚、同8の債券二枚、同第二目録記載2の野村証券(第八九回投資信託)一〇枚は、前記と同様にして原告会社の金庫に収納された。

(五)  同第二目録記載5の株券二八〇枚については、原告会社は、被告会社に対し、同三田村勇の預金三八五万七、二二三円、訴外大阪卸衣料株式会社に対し、同被告の損金六一三万〇、一〇〇円、合計金九九八万七、三二三円を原告会社代理人を介して支払い、これらの返還を受けた。

(六)  同第一、二目録記載の有価証券のうち、同第三目録記載の有価証券は、被告三田村勇が被告会社とした清算取引と、被告会社を通じて名古屋繊維取引所の仲買人である訴外河内商事株式会社とした毛糸の清算取引とから生じた差損金の清算として、被告会社が昭和三九年一二月四日から昭和四〇年六月三日までの間に処分したため、原告会社は、その返還を受けることができなかつた。

四被告中西宇七の責任についての判断

(一)  商品取引における外務員が、顧客の差し出す有価証券が盗品その他不正に入手したものであることを知りながら、あえてこれを受領して仲買人に取り次ぎ委託証拠金として預託させる場合は、故意に真実の権利者の権利を侵害したものとして不法行為を構成するものといわなければならない。

ところで、商品の清算取引は、売買や貸借などの一般取引と異なり、取引申込人の資格や個性は問題にされず、その信用度はもつぱら顧客の差し出す委託証拠金の額によつて決せられ、簡易、確実な決済方法が予定されているが、他方、商品取引自体は、顧客の注文を大量かつ画一的に、しかも迅速に処理することが要請される。従つて、原則として、委託証拠金として顧客から差し出された現金又はその代用の有価証券が顧客の正当な権利に属するかどうかを逐一調査確認してから預託を受ける注意義務を負わないというべきである。しかし、差し出された有価証券自体から盗品その他不正に入手したものであることが一見して推知される場合はもちろん、顧客の職業上の地位、従来からの取引の態様、その間に判明した信用度、新たに委託された取引内容、その取引高、その頻度、証拠金代用として差し出された有価証券の種類、券面額、授受の態様からみて、それが顧客自身の調達の限度を超え他から不正に入手したものである疑いが濃厚である場合には、外務員は、その疑念の程度に応じて顧客に質問し、あるいは、その裏付資料の提出を求めるなどしてその疑念を解消したうえで預託を受け、取引を継続すべき注意義務があるとしなければならない。従つて、外務員が、これを怠り、不正に入手したものである公算が大きいのに、そのまま、この有価証券を仲買人に預託させ、取引の注文を促し、その結果、右有価証券を差損金の清算に充てるため処分したときは、外務員は、過失による不法行為責任を免れないと解するのが相当である。

(二)  <証拠略>

(1)  被告三田村勇は、原告会社の前身である日の出紡績株式会社に入社して以来、財務部管財課に勤務してきたが、昭和二九年ころから商品取引に興味を覚え、毛糸、綿糸等の清算取引を行つていた。

(2)  被告中西宇七は、昭和二年ころ大阪三品取引所仲買人会社に勤務したのを最初とし以来、仲買人会社の、内勤社員又は外勤社員として勤務し、昭和三五年ころから被告会社の前身である島津商店に入り、その登録外務員として勤務してきたもので、その経歴、年数からしても各種清算取引の実態に精通し、経験豊かないわゆるベテラン外務員であつた。

(3)  被告三田村勇は、昭和三三年ころ外務員訴外加藤某に被告中西宇七を紹介されて以来、同被告を通じて当時の勤務先である仲買人会社次いで被告会社との間に毛糸の清算取引を継続してきたが、昭和三六年ころまでの同三田村勇の差し入れた委託証拠金は、たかたか現金約一〇万円程度であり、その間に委託した売買の取引高もその証拠金の額に見合う程度のものにすぎなかつた。しかし、その後、相場の変動に伴い次第に欠損額が累積し、同中西宇七を通じて被告会社から追証拠金を厳しく請求され、これに応ずる資力を欠いた同三田村勇は、居宅の権利証を担保に入れて清算取引を継続した。しかし、同被告のこの取引は、昭和三七年一一月には、約金一九〇万円の損金になり、同被告は、被告会社から清算を求められた結果、右居宅を約金一二〇万円に評価して所有権移転登記手続をし、残額金七〇万円を棚上げしてもらい昭和三八年八月右居宅を明け渡すことを約束して問題を解決した。

(4)  被告三田村勇は、昭和三七年一二月居宅の立退を要求されて経済的にも精神的にも困り果てたが、同中西宇七から「相場で損をしたものは相場で取り返せ。どこかから借りてきてでも相場をはれ。」などと執ように勧められ、再び同被告を通じて清算取引を始めることを決意した。しかし、同三田村勇は、前記のとおり、被告会社との取引で生じた損金が棚上げ状態にあつたことから、「三田村勇」名義では被告会社との取引ができないため、同中西宇七の勧めで「西村信市」との偽名を用い、被告会社との清算取引を始めた。従つて、同中西宇七には、「西村信市」が同三田村勇のことであり、同被告自身には商品清算取引の委託証拠金を預託する資力の全くないことが判明していた。

(5)  被告三田村勇は、再び清算取引を始めることにしたものの、委託証拠金を預託できないため、原告会社の金庫から割引農林債券額面金一〇〇万円を持ち出し、被告中西宇七に「親類から借りてきた」と言つてこれを交付した。ところが、同三田村勇は、相場の暴騰によつて約金三〇〇万円の利益をあげ、被告会社に預託してあつた割引農林債券の返還を受けて原告会社に戻したうえ、利益金の一部を委託証拠金として更に毛糸の清算取引を続けた。

(6)  被告三田村勇は、その後、同中西宇七を介して被告会社を通じて訴外河内商事株式会社との間で毛糸の清算取引を、被告中西宇七を通じて訴外大阪卸衣料株式会社との間で砂糖の清算取引をしたが、昭和三九年五月ころには、河内商事株式会社との取引で約金一三万円、大阪卸衣料株式会社との取引で約金五〇万円の差損を生じた。しかし、同三田村勇は、右差額を清算するための現金の手持がなかつたので、同中西宇七に対し再び原告会社から持ち出した割引農林債券額面金一〇〇万円を担保に供し、同被告から金七〇万円を借り受けてこれを右損金に充てて、なお引き続き取引を継続した。

(7)  被告三田村勇は、昭和三九年九月ころから、更に同中西宇七の勧誘により、被告会社との間で「西村信市、西上良一、二宮琢一、牧野二郎、山口四郎、井手一郎、川村一郎」の名義で穀物、生糸の清算取引に手を拡げた。この結果、昭和三九年八月ころまでの取引の売買約定がせいぜい金二、三百万円くらいが限度で、その委託証拠金も、有価証券にして金二〇〇万円くらいであつたのが、同年一〇月にはその取引が金二、〇〇〇万円を超えるにいたり、約金三〇〇万円の差損が生じ、なお相場の値動の状況から近々約金一、〇〇〇万円の差損の生じることが確実になり、同三田村勇は、同中西宇七から追証を差し入れるよう厳しく追及された。

(8)  被告三田村勇は、同年一〇月一七日原告会社の金庫から同第一目録記載1の金二、〇〇〇万円の日本不動産債券を持ち出して、被告中西宇七に対し、「被告会社に対し大きな資産家のものであるというように説明しておいてくれ。」と言つて、右証券を委託証拠金追証の代用として交付したが、この書辞は、被告会社に対してはその旨説明しておいてくれという趣旨であつて、同中西宇七を納得させることを目的としたものでなかつた。同被告は、これに対し、右証券の巨額な点に驚くとか、その出所に不審をいだくような態度を見せなかつた。ついで、同三田村勇は、同年一一月一三日同様にして、同目録記載2の有価証券を被告中西宇七に交付した。

(9)  原告会社は、同月二〇日公認会計士の会計監査を実施したが、被告三田村勇は、原告会社の管財課の係員として監査に立ち会わなければならず、また前記のとおり持ち出した有価証券についても監査を受ける必要上、同月一九日、被告中西宇七を原告会社に呼び出し、同被告に対し、「整理の都合があるから明日昼ころまでに前に渡した日本不動産債券を返還して欲しい。夕方までには同証券とともに他の有価証券も加えて返還する。」と申し出たところ、同被告は、「監査があるのか。」と反問し、同三田村勇はこれにうなずいた。

被告三田村勇は、翌二〇日午前中に日本不動産債券の返還を受け、公認会計士の監査を受け終り、同日午後四時ころ、同中西宇七に対し右有価証券のほか額面金五〇〇万円の有価証券などを交付した。

(10)  原告会社は、割引農林債券、割引商工債券を他から融資を受けるについての歩積のために所有していて、決算期前にはこれを売却し、決算期後に再び新たな債券を買い入れることになつていた。被告三田村勇は、昭和四〇年四月下旬、原告会社の決算期を目前にして、被告中西宇七を通じて被告会社に預託していた割引農林債券、割引商工債券の返還を求めたとき、右証券が会社が融資を受けるについて歩積して常に持つているものである旨説明した。

(三)  以上認定した事実からすると、被告中西宇七は、遅くても昭和三九年一一月二〇日までには、被告三田村勇が原告会社の有価証券を無断で持ち出しこれを自己の商品取引の証拠金代用にあてているとの疑念を抱くに十分な客観的事情を知つたとするほかはない。従つて、同中西宇七としては、この疑念を晴してから、被告三田村勇から有価証券を受け取るべきであつた。同中西宇七は、同日、そのことをしないで同三田村勇から有価証券を受け取つたのをはじめとし、その後も取引終了まで、同被告から多額の有価証券を受け取つたのであるから、被告中西宇七には、この点で過失があり、民法七〇九条による不法行為責任があることに帰着する。

(四)  無過失の主張に対する判断

前記認定事実によると、当時、被告三田村勇の背後に有力な資産家がついているとは考えられない状況であつたから、仮に、同中西宇七が有力な資産家がいると信じていたとしても、すでにその点に過失があるというべきであるから、同被告は、責任を免れない。

五被告会社の責任についての判断

被告中西宇七が被告会社の登録外務員であることは、前記のとおりであるが、右両者間の契約内容としては、外務員である同中西宇七が、顧客から商品の売買、委託の媒介などの注文を受けた場合、これを被告会社に通じ、その取引を成立させる義務を負担するとともに、特別の事情のない限り、顧客から商品売買取引の委託を受け、有価証券や金銭を授受するについて被告会社を代理する権限を有しており、他告被告会社は、報酬として取引手数料の一定の割合による金員を歩合として支払い、同中西宇七の通じた売買の委託を受理すべき義務を負担している。従つて、これらの過程で同中西宇七は被告会社の指揮監督に服するものであつたことが、<証拠>によつて認められ、この認定に反する証拠はない。

そうすると、被告中西宇七と被告会社の関係が被告会社の社員としての雇傭関係でないにしても、その実体に着目したとき、被告会社は、民法七一五条の使用者に該当すると解するのが相当である。

従つて、被告会社も同中西宇七の使用者として同被告と同様の責任を負うことになる。ただし、同被告が同三田村勇から受け取つた同第二目録記載5の株券のうち八〇枚を大阪衣料株式会社に預託した点については、前記認定によると、同中西宇七が被告会社の事業の執行について損害を加えたものではないから、被告会社はこの点について責任を負わない。

六被告大石吉六、同大石敏郎、同島津明夫、同小野高重の責任についての判断

(一)  不法行為責任について

<証拠>を総合すると、次のことが認められ、この認定に反する証拠はない。

(1)  被告三田村勇は、昭和三七年一一月ころ、差損金約金一九〇万円の清算のため、被告会社に自己所有の家屋を金一二〇万円と評価して譲渡し、残額金七〇万円については、棚上げしてもらうことにして、問題を解決した。

(2)  被告三田村勇は、その後再び、同中西宇七を介して被告会社との間で清算取引を始めたが、前記の経緯から「西村信市」名義を用いることになつた。同中西宇七は、同三田村勇から委託証拠金の代用として受け取つた有価証券を被告会社に引き渡すとき、被告会社に対し、この客は大資産家である旨説明していた。従つて、被告会社の大石吉六らは、本件が発覚するまで、右客が同三田村勇であることを知らなかつた。

(3)  被告中西宇七が同三田村勇から受け取り被告会社に引き渡した有価証券は、株券をのぞきすべて無記名のものであり、その額も、同三田村勇の清算取引による損金を担保するのに十分であつた。

(4)  清算取引が架空人名義で行われることは珍しいことではなく、外務員が顧客から架空人名義にした取引を望まれた場合、その意向に従うのが一般である。また、客の背後に大資産家がつく場合もあり、この場合、背後にある者が誰であるかは、尋ねても教えてもらえないのが通常で、執ようにこの点をせんさくして客の機嫌を損じては以後の注文がもらえなくなるおそれがあるので、仲買人やその外務員は、この点をあまり追及できないし、また追及しないのが普通である。そして、信用は、もつぱら証拠金という担保にたよるのが実情である。

以上認定の事実によると、被告大石吉六らは、同三田村勇が同中西宇七を介して預託された有価証価が賍品であることを知らなかつたといえる。そして、同大石吉六らがこのことを知らずに被告会社に預託させたことから、直ちにこれを同被告らの過失であると断ずることは無理である。

そのほか、同大石吉六らに故意又は過失のあることが認みられる証拠はない。

従つて、原告会社のこの主張は採用しない。

(二)  代理監督者責任について

「民法七一五条二項にいう「使用者ニ代ハリテ事業ヲ監督スル者」とは、客観的に見て、使用者に代り現実に事業を監督する地位にある者を指称するものと解すべきであり、使用者が法人である場合において、その代表者が現実に被用者の選任、監督を担当しているときは、右代表者は、同条項にいう代理監督者に該当し、当該被用者が事業の執行につきなした行為について、代理監督者として責任を負わなければならないが、代表者が、単に法人の代表機関として一般的事業執行権限を有することから、ただちに、同条項を適用してその個人責任を問うことはできないものと解するを相当とする」(最判昭和四二年五月三〇日民集二一巻九六一頁参照)。

原告会社は、被告らが被告会社の代表取締役ないしは取締役であると主張するだけで、右被告らが現実に同中西宇七の選任又は監督をする地位にあつた事実を主張、立証しないから、原告会社のこの点の主張は採用の余地がない。

(三)  以上の次第で、原告会社の被告大石吉六らに対する本件請求は、その余の点について判断をするまでもなく、失当として棄却を免れない。

七そこで、以下被告三田村勇、同中西宇七、被告会社の負担すべき損害額について判断をすることになるが、その前に、過失相殺の点について判断する。

<証拠>によると、次のことが認みられ、この認定に反する証拠はない。

(一)  原告会社の保有する有価証券の管理については、管財課で台張記帳、名義書換、利札の整理、処分等の手続を行ない、証拠の保管は、会計課が行なうことになつていた。おな、管財課で手続のため必要なときには、同課の金庫に保管することもあつた。

(二)  原告会社では、年二回、公認会計士によりその資産の監査を行なうことにしていた。この監査には、被告三田村勇、管財課長、監査課員、会計課長が立ち会うのであるか、担当者が同被告であるため、同被告がいないと監査ができない有様であつた。逆にいうと、同被告が、監査外以のときに管財課の金庫から有価証券を持ち出しても、他の社員にはわからなかつた。

(三)  同被告は、会計課で保管中の有価証券を名義書換等の手続のために必要な場合には、会計課に預り品カードを差し入れて右証券を持ち出すことができる。その場合、会計課は、その必要とする理由を問いたださないし、引渡後は、返済の催促をしなかつた。

右認定事実によると、原告会社の有価証券の保管方法に不備があつたというべきである。

そこで、原告会社の右の過失を斟酌して、原告会社は、被告中西宇七、被告会社に対し、損害額の約八割を請求することができるにとどまるとするのが相当である。なお、被告三田村勇の負担すべき損害については、原告会社の右過失を斟酌しない。

八損害額についての判断

(一)  有価証券を喪失したことによる損害 金八、七九九万七、四六〇円

原告会社が、被告三田村勇が不正に持ち出した有価証券のうち、同第三目録記載の有価証券の返還を受けられなかつたことは、前記認定のとおりである。

ところで、不法行為によつて有価証券を喪失した場合の損害は、被害時の証券の時価相当額と解するのが相当である。

<証拠>によると、原告会社が喪失した有価証券の被害時の時価が同第三目録記載のとおりで、その合計が金八、七九九万七、五六〇円であることが認められ、この認定に反する証拠はない。

(二)  有価証券の返還を受けるために出捐を余儀なくされたことによる損害

金九九八万七、三二三円

原告会社が同第二目録記載の5の株券の返還を受けるために、被告会社に金三八五万七、二二三円、大阪卸衣料株式会社に金六一三万〇、一〇〇円、合計金九九八万七、三二三円の出捐をしたことは、前記認定のとおりであるから、右金額が原告会社の損害である。

(三)  過失相殺

原告会社の損害は、以上の合計金九、七九八万四、七八三円になるところ、被告中西宇七と被告会社について、前記原告会社の過失割合(約二割)によつて過失相殺すると、原告会社が請求できる損害額は、被告三田村勇に対して、金九、七九八万四、七八三円(全額)、被告中西宇七に対して、金七、八三八万円(同額の約八割)、被告会社に対して、金七、三四八万円

((97,984,783・−6,130,100円)×0.8)となる。

九むすび

以上の次第で、原告会社に対し被告三田村勇は、金九、七九八万四、七八三円と、これに対する本件不法行為の日以後である昭和四〇年一一月四日(訴状送達の日の翌日)から、被告中西宇七は、金七、八三八万円と、これに対する本件不法行為の日以後である同月五日(同上)から、被告会社は、金七、三四八万円と、これに対する本件不法行為の日以後である同月五日(同上)から各支払いずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金をそれぞれ支払わなければならないから、原告会社の被告三田村勇、被告中西宇七、被告会社に対する本件請求をこの範囲で認容し、これを越えるる部分と、原告会社のその余の被告らに対する本件請求を失当として棄却し、民訴法八九条、九二条、九三条、一九六条に従い、主文のとおり判決する。

(古崎慶長 下村浩蔵 春日通良)

<第一〜第三目録省略>

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